Interview
2020.01.29

兜町に強い“点”を打つ。 マイクロ・コンプレックス施設「K5」完成。

兜町に強い“点”を打つ。 マイクロ・コンプレックス施設「K5」完成。

日本を代表する金融街・日本橋兜町。東京証券取引所のすぐ横に位置する場所に、地下1階・地上4階建の複合施設が2020年2月1日にオープンします。その名は“K5”。1923年に建てられた、以前は銀行として使われていた延床面積2,096.85㎡の兜町第5平和ビルをリノベート。ホテルと飲食店が入った空間となっています。手がけたのは、東日本橋・馬喰横山のホステルCITANを運営する株式会社Backpackers’ Japanの代表・本間貴裕さん、ブランディングやプロモーション事業を展開するMedia Surf Communications株式会社の代表・松井明洋さん、ホテルの企画・開発・運営を行う株式会社InSitu Japanの代表・岡雄大さんの3人。日頃から仲のよい3人が、自分たちがいいと思うものだけを集めてつくったK5。開発をしていく中で生まれてきた想いや、少数チームでベストの結果を出す秘訣などを伺いました。

地域密着のマイクロ・コンプレックスが街をリードする時代に。

ー今回完成したK5はどのような施設か、まずは全体像をお聞かせください。

本間貴裕さん (以下、本間): このK5は、私たちが“マイクロ・コンプレックス”という考え方を元に開発した複合施設です。2階から4階には私たちがプロデュースしたホテル「K5」。1階は飲食フロアになっており、目黒で人気の「KABI」の新店舗となるレストラン「CAVEMAN(ケイヴマン)」や、目黒と代々木八幡で話題のコーヒーショップ「SWITCH COFFEE TOKYO」、田中開氏と野村空人氏がプロデュースするバー「青淵(アオ)」が出店しています。また地下1階はビアホールになっており、ニューヨークのクラフトビールブランド「ブルックリン・ブルワリー」の世界初となるフラッグシップ店「B(ビー)」が入っています。

松井明洋さん(以下、松井):ブルックリン・ブルワリーのビールというと数種類しか飲めない店舗が多いですが、ここでは20種類近く飲むことができます。

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兜町第5平和ビル<2019年11月撮影>(写真提供:K5)

松井:私たちが意識したのは、訪れた人の感性に深く刺さる流れをつくること。例えばご夫婦でこのK5を訪れて、地下1階のビアホール「B(ビー)」でタコスを食べながら軽く1杯飲む。そのあと1階の「CAVEMAN」に移動して食事やワインを楽しんで、最後はバー「青淵(アオ)」で締める。その夜は上階のホテルに泊まり、朝は「SWITCH COFFEE TOKYO」でコーヒー。「CAVEMAN」で朝食をとってからチェックアウト。ひとつの建物内でそういった魅力的なエクスペリエンスを提供できたら素晴らしい。そんな想いの中で、建物全体のプランニングやキュレーションをしていきました。

ー今回はどういった経緯で、このK5を手がけることになったのですか?

本間:東京証券取引所ビルなど兜町の不動産を多く所有する平和不動産さんから、日本橋兜町を国際金融都市としてより元気にしていきたいという相談があり、このプロジェクトは始まりました。私が東日本橋・馬喰横山のホステルCITANを立ち上げ、運営していることもあり、声をかけてくれたのだと思います。スタートにあたって私たちが掲げたのは、“再活性-Revitalize the city”というコンセプト。ホテルをつくるにしても完成して終わりではなく、このホテルがずっと存在していくことでこの街がより元気になっていく。そんなイメージを持って開発を始めました。完成のその先を見据えたプロジェクトです。

依頼を受けた時に、“再活性-Revitalize the city”という言葉はすぐに浮かんだのですが、具体性がなければコンセプトは機能しません。どのようにしたら“Revitalize”されるのかを考えた時に、兜町の歴史と向き合う必要がありました。兜町は、金融業界におけるテクノロジーの発達によって、街の核である東京証券取引所に出入りする人が減少し、最盛期に比べて人の流動が減ったという経緯のある街です。

松井:人が少なくなった街に建てるホテルはどんなものかと考えた時、兜町へ実際に来ないと体感できない経験を提供することで人が集まり、街の人が元気になると考えたんです。そのような着想から、五感で感じる“センシャスなホテル”というアイディアが生まれました。 

本間:兜町には古くから金融都市であるというルーツがあり、こういったプロジェクトではそうしたルーツがとても重要です。デザインやコンセプトをつくりあげる際の足掛かりになるという点で。古くからあるものを受け継いでアップデートすることには価値があると感じます。

“静と動”“都会と自然”2つの対比で感性を刺激。

-具体的にはどのように五感へ訴えかけようと考えたのですか?

本間:K5をつくりあげていくにあたって、静と動という考え方を取り入れました。ホテルである2階から4階は静、人々が賑わい楽しむ1階・地下1階は動のイメージです。静の空間でリラックスすると同時に、動の空間で刺激を受けインスピレーションを得る。例えるならサウナの水風呂といったところでしょうか。熱さと冷たさを行き来することで五感を際立たせるみたいな。静と動、その両方を感じることで人の感性が強く目覚めると考えたのです。

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東日本橋・馬喰横山のホステルCITANの運営者でもある本間貴裕さん

本間:さらにもうひとつ、ホテルの空間デザインに“Returning to the Nature(自然に帰る)”という考え方を取り入れています。ホテル空間は主に自然を感じられる要素で構成しました。都会の中に自然なものを散りばめることで、泊まる人の感性を研ぎ澄ましてもらおうと考えたのです。そのために建物全体の建築デザインの監修は、ストックホルムを拠点として活躍する「CLAESSON KOIVISTO RUNE」の建築家でデザイナーのOla Rune(オーラ・ルーネ)氏に依頼。結果的には全体監修にとどまらず、ソファやテーブルなど数多くのプロダクトのデザインにまで深く踏み込んでもらうことになりました。

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Ola Rune氏がデザインした客室。(写真提供:K5)

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ブルックリンブルワリー「B」(写真提供:K5)

CAVE

Caveman メインダイニング(写真提供:K5)

ー先ほど出てきたマイクロ・コンプレックスという言葉についても、お聞かせください。

松井:世の中には巨大な複合施設はたくさんあります。それはそれで存在意義があり、経済を大きく回していることは確かです。しかしこれからの時代には、そういった大規模開発による施設だけではなく地域に寄り添った小さな複合施設が必要だと考えていて、マイクロ・コンプレックスという言葉を生み出しました。地域に寄り添った小さな複合施設だからできること。そういった意味でK5は、これからの兜町について考えを巡らせ、とても丁寧にキュレーションされた複合施設になっています。実際に1階や地下1階にはいま日本で考えられる本当にベストなテナントが入っています。また、1つの企業が開発を行うのではなく、感性を共にした様々なジャンルのチームが集って共同でプロデュースすることもマイクロ・コンプレックスの要素のひとつ。インテリアデザインも植栽も、今現時点において極めて魅力的なメンバーに集結してもらいました。

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ブランディングやプロモーションを担当した松井明洋さん

本間 :デザインや植栽など感性が近いパートナーと組み、共同でプロデュースするメリットは大きいです。「この人とやりたい」「このチームでやったらどんな施設になるんだろう」という好奇心が最初に来ているので、マーケットリサーチや流行っているホテルを研究してつくられた、どこかの施設に似た場所になることはありません。自分たちがいいと思う物や人を集めて一緒につくりあげたので、私たちのチームにしかできない既視感のまったくない施設になったんじゃないでしょうか。

松井:インディペンデントな人たちが集結し誕生したK5という存在が、今までの大規模開発という成熟した価値観からの転換を生むんじゃないかな。マイクロ・コンプレックスは今の時代にこそ必要な考え方だと思います。

友達どうし秘密基地をつくる感覚でここまできた。

ー今回どういったいきさつでこのメンバーが集まったのでしょうか?

本間:私のところで働いていたスタッフが松井くんの会社に勤めるようになり、そのスタッフからの紹介がきっかけでした。その後、飲み仲間になっていつか何かできたらいいねという話をしていたら、平和不動産さんからこのプロジェクトの話が来たんです。松井くんに声をかけたら面白そう!という話になりまして。

松井:二つ返事でジョインすることになりました。

本間:それと同時に今回のプロジェクトは、私が今まで手がけてきた宿泊施設よりも規模が大きく、私たち以外にも海外のデザインチームや建築チーム、メディアチームも必要でした。ホテルを実際に形にしていくためのリードをとるプロジェクトマネジャーが必要だったので、ホテルの企画・開発のできる岡くんに入ってもらいました。今回の開発を実際に動かし、チームをまとめ、ファイナンス面も含め現実化するために動いてくれています。フルイングリッシュでグローバル、そしてみんなと仲良くできるというのが条件で、彼が適任だったんです。

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ホテルの企画・開発・運営を行う岡雄大さん

岡雄大さん(以下、岡):最初は開発のとりまとめということで私は入ったんですが、今はホテル運営もうちのスタッフが担当し、オペレーションチームをつくっています。

ー松井さんはこの話を本間さんから聞いて、最初にどう思われました?

松井:もともとの話では、本間さんの本業である宿泊施設以外の階で何か一緒にできないか?という相談でした。でもどうせやるのなら、地下階と1階、それと2階以上をまとめてコンセプトメイクし、ブランディングしていったほうがいいよねという話になった。そんな中で先ほど出てきた“静と動”や“都会と自然”といった対比の話や“五感で感じるセンシャス”という考え方が出てきて、それを実現するには誰と組んだらカッコいいものになるか、どういったテナントに入ってもらったら面白いかという話で進んでいきました。

本間:再活性というイメージは最初からありましたが、その他は何も決まっていない状況で2人には参加してもらっています。K5というネーミングも松井さんの提案ですし、平和不動産さんから話を受けたのは私でしたが、すべて自分がリードしてといったわけではありませんでした。

ー友達のような関係性のまま、この規模のプロジェクトを進めていったんですね。

本間:秘密基地を自分たちで楽しんで作っている感じですね。当初の役割分担について、それぞれ責任を持って進めてはいるのですが、お互いかなり口出しをしています。役割のボーダーは曖昧なんだけれども責任の所在ははっきりしているイメージです。よりよくなることであれば、垣根を超えてでも意見をする。でも最終的には各々自分の役割において自らが決断をするというスタイルです。

松井:正直、こういったやり方は初めてです。

本間:自分も初めて。このスタイルになった転機は自分の中で明確にあって、岡くんが途中で「自分はプロジェクトマネジメント屋としてだけで参加したいわけじゃない」と発言した時です。彼が「俺はホテルを一緒につくりたい」と言ったときがターニングポイントだったと思いますね。

岡:なので先ほども言いましたが、開発のとりまとめだけでなくオペレーションまで私の会社で手がけているんです。「与えられた役割を全うする」という考え方から「ホテルを一緒に作る」というマインドに変わった瞬間が一人ひとりにあった気がします。そしてひとつのチームに変わっていった。チームだからこそ、向こうでボールが奪われそうだったらヘルプに行きますしね。決して最初から一緒に秘密基地をつくる仲間という関係性だったわけではなく、お互いが不満を言い合っていた時期もあって、それを経て今があるという感じです。

ーとはいえ関係性のバランスの取り方がすごく難しい気がしますが。

本間:確かに私たちの役割・関係性は明確に定義されてないので、難しいかもしれませんが、変わり続けることには価値があるなと考えています。それって実はK5にも通じることなんですよね。時代の流れや感覚でK5という施設も常に変わっていくべきだと私たちは思っています。変わることが前提にあるというか。K5にはこういう役割があるとはっきりと定義するつもりはありません。むしろ定義しない良さを最大現に活かせていけたらと思っています。

松井:ちなみにK5のロゴのクリエイティブコンセプトは無味無臭・無色透明。今後、時代の流れや感覚で太さを変えたり、微調整することを前提としてつくっています。今回はロゴだけでなくすべての英文字をオリジナルK5フォントとして制作しました。

ロゴ拡大

極めてシンプルなデザインのロゴマーク(画像提供:K5)

松井:でも関係性をうまく保つために、しっかり押さえていたポイントはあったかもしれません。私は一年の半分はヨーロッパに住んでいて、私以外の二人も国内外に飛び回っていて物理的に会えない時間がとにかく多かった。そんな中で問題が起きた時、電話やメッセージだけのやりとりでは平行線をたどるけど、たった2分会って話せば、それだけで解決できるということが結構多かったんです。

岡:ベースとなるコミュニケーションの方法や価値観が似ているのは確かですが、それに甘えず本当に大事なことを決める時は、膝をつき合わせて同じ空間で話そうと言って実際にちゃんと会えていたのが大きいです。電話で話そうじゃなくて、なんとか時間をつくって会って話そうと一人ひとりが意識していました。これが形式張っていないチームでうまくいくコツかもしれません。

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K5の意義は、兜町に強い“点”を打つこと。

ーK5と日本橋兜町の関係性が、今後どのようになると想像しますか?

松井:海外の都市では、バーやレストランに入ろうと思ったけど満員で入れなかった時、たいていすぐ近くに感じのいい店がありそこに移動できるんです。そういった動線の構築を、地域に密着した複合施設だからこそ担えると思っています。流動性が生まれ、街が活発になっていく。その象徴がこのK5であってほしい。例えばビアホールの「B(ビー)」に行ったが満席で飲めなかったけど、1階の店に行ってみたら楽しく飲めた。K5のどの店も埋まっていたら、ちょっとだけ歩いて別の店に行ってみる。そういったスタイルが街全体に浸透すれば、とにかくまずは兜町ならどこかしら自分に合った店に入れるから行こうという習慣が生まれる。そうすれば人が街に流入し、街が活発になると私は思っています。

本間:自分は街を積極的に活性化するというより、街の中にピンポイントでめちゃくちゃ強い“点”を打つことで、自然発生的にその周りが面白くなるというのが、街の本来のあり方だと思うんです。なので、始まりの“点”になることがK5の役割だと思っています。街がどうなるかは、その街の人が育てていくもの。僕らができることはめちゃくちゃ強い点を打つこと。その結果、街が面白くなればいいと思います。

岡:私は少しだけ違っていて、街の変化にK5が積極的に関わっていってもよいと感じています。今までは自分の勤務先があって、そこから考えて住む場所や行く場所を決める時代だった。でも今後は会社の“立地”にとらわれず働けるようになっていきますから、勤務先や学校などに関係なく、自分が住みたい、行きたいと思う場所を選んで生活することが主流になっていきます。なので、日本橋兜町に共感する人が移り住む、消費する、時を過ごす、楽しむ。そんな街にトランスフォームさせていくことが大切だと考えます。個人的には街に対してもう少し積極的にきっかけをつくり、K5を起点として、地元の人たちと街をリノベートするのもいいかなと思っています。

松井:こんな感じで3人の意見に誤差があることもよくありますが、目指す所は同じなので、顔を合わせて話していれば、最善の結果が見つかる。こんな進め方ができたから、仲間感覚のチームでうまくいったんだと思いますね。

取材・文:安井一郎(konel) 撮影:岡村大輔

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