Report
2019.11.27

街とクリエイティブの未来-「β Lounge」Vol.2 トークセッションレポート

街とクリエイティブの未来-「β Lounge」Vol.2 トークセッションレポート

日本橋とクリエイターをつなぎ、街の未来をつくる共創プロジェクト「nihonbashi β」が主催するイベントシリーズ「β Lounge」。その第2回が10月26日に行われました。テーマは「街を舞台にしたクリエイティブの未来」。その中から11月4日まで三越前駅地下歩道を舞台に開催された「めぐるのれん展」をテーマとしたトークセッションをレポートします。この展示にクリエイターとして参加いただいた倉本仁さん、関戸貴美子さん、森本千絵さんに、作品の制作秘話や、街というパブリックな場とクリエイティブの関係性について、お話しいただきました。進行はNIHONBASHI MEGURU FESのクリエイティブディレクターを務めた戸田宏一郎さんです。

暖簾というテーマと向き合い、何を考えたのか?

戸田:今回の「めぐるのれん展」は、NIHONBASHI MEGURU FESのメインコンテンツとして行われていまして、多種多様な企業やクリエイターの方々が参加し、「日本橋の街」や「企業のアイデンティティ」を表現する暖簾を制作していただきました。この展示は、江戸時代の日本橋を描いた「熈代勝覧(きだいしょうらん)」という絵巻にある、活気にあふれる街の姿を現代で再現しようと始まったプロジェクトです。

07

熈代勝覧(部分) ベルリン国立アジア美術館 Photo AMF / DNPartcom / © bpk / Museum für Asiatische Kunst, SMB / Jürgen Liepe

まずはじめに「TACTILE CLOTH」を制作したプロダクトデザイナーの倉本仁さんから、簡単な自己紹介と、今回の暖簾についてのお話を聞かせていただけますでしょうか。

倉本:プロダクトデザイナーの倉本です。よろしくお願いします。普段は携帯電話や家具、サングラスや車など様々なプロダクトデザインに関わっています。今回の「めぐるのれん展」では、くぐったところから柔らかい光がふわっと広がる、そんな暖簾を作らせていただきました。

暖簾は本来、その店がどんな店なのかを表すサインの役割を持っていたわけですが、現代のサインを考えてみると、デジタルサイネージなどのデジタルなものも多いですよね。そういった中で「現代における暖簾では、どんな表現ができるか」ということをまず考えたわけです。そんな想いを巡らせているうちに、サインとしての役割以上に、暖簾をくぐる時の体験価値を面白く見せた方が、現代の暖簾としてはよいのではないかという考えに至り、このような暖簾が生まれました。

03

倉本仁作「TACTILE CLOTH」

なぜ体験価値に至ったかについてお話ししますと、発想の原点は老舗旅館なんです。伝統的な旅館ではよく入口で打ち水をします。水を打つことで1℃〜2℃、玄関の気温を下げているんですね。そうするとお客さんはそこを通った時に少しひやっとする。その身体変化を起こした流れで旅館の中へと導いているんです。木のお風呂の湯船のお湯がひたひたに張ってあるのも、湯船に入った時にお湯があふれて湯気が立ち込める、この感覚を味わってもらうため。こういった体験が今の時代にできるということはとても意味があるのではないかと思ったんです。

04

JIN KURAMOTO STUDIO プロダクトデザイナーの倉本仁さん

暖簾でそういった体験を提供したいと思い、浮かんできたアイディアが、くぐった時に暖簾自体が光って反応してくれるというものでした。しかし、いざ作ってみると非常に大変。まずは光る布を作るために、帆布職人さんに光ファイバーを持って行って「布に織り込んでほしい」とお願いするところからスタートしました。しかし試作がなかなかうまく進まず、とうとうタイムリミットが来てしまった。かなり苦労したのに断念せざるを得なくなったんです。

05

暖簾の細部を見てみると、ファイバーを織り込んで作られているのが分かる

さてどうしようと困っていたら、なんとスタッフが既製品の光る布を見つけてきてくれて(笑)。それがなかなか質のよい素材だったんです。そのおかげでどうにか間に合わせることができました。他にも光らせ方や音の出し方、センサーの感知の仕方などのシステム周りをエンジニアの方に助けていただいて、ようやく仕上げられた感じです。

戸田:この倉本さんのデジタルなアプローチとは対照的に、アナログなイラストを使って制作されたのが、関戸貴美子さんの「ここが日本橋かあ」ですね。

関戸:関戸です、よろしくお願いします。広告代理店の電通でアートディレクターをしています。普段は、企業や商品が伝えたいメッセージを消費者の方々にいかに伝えていくかということを考え、企画の設計やデザインに落とし込んでいく仕事をしています。

今回暖簾を制作するにあたっては、暖簾がかつて持っていた役割に着想を得ました。もともと暖簾は、文字が読めない人でもその店がどんな店かを理解できるノンバーバルな表現媒体でした。なので現代で暖簾を制作するにあたっても、そういった機能のあるものに挑戦したいなと考えたんです。また、今回掲出される場所が人の往来の激しい地下歩道だったので、遠目で見てもぱっと目について、日本橋に興味をもってもらえるようなものにしたいという想いもありました。そうした結果、アイコニックな表現がいいのではないかと思い至りました。

06

関戸貴美子作「ここが日本橋かあ」

具体のデザインを考えるにあたっては日本橋の街の歴史を調べていったのですが、その中で、江戸時代には大きな魚河岸があり舟運物流が活発であったことや、鯛の生簀(いけす)がある活鯛屋敷(いけだいやしき)があったということを知り、それがとても印象に残りました。日本橋は震災や戦火に見舞われ魚河岸も失ってしまいましたが、橋の改修や昨今の開発も経て、賑わいを取り戻しつつあります。そこで「江戸時代の鯛が、今の日本橋を見たらどう思うだろうか?」というストーリーを考え、イラストで表現することにしました。

07

電通アートディレクター 関戸貴美子さん

これは私が描いたラフなんですが、水滴など細部を見るとしっかり描ききれていないんです。でも実際に、手染め友禅の職人さんへお願いして形にしていただいたら、水滴の部分は地色を反転させ、グラデーションの表現をいれてくださっていて、最高のディテールに仕上げていただけて。自分が考えたデザインやプランを職人さんが咀嚼してアップデートしてくれるという経験は、本当によい経験になりましたね。

08

手染め職人に渡したイラスト(左)と実際に染め上げたもの(右)

倉本:私はこの暖簾、すごくいいなと思いました。私は普段モノを作る時に、これはここがいい、と説明的な理由を求めてしまうんです。そのような考え方で制作すると、ある意味雰囲気勝負にもなりかねないイラストという発想はなかなか出てこなくて。なのでイラストで勝負しようと決めて、ストーリーを込めた表現をされたことは素晴らしいと思いましたね。

戸田:コンセプトを突き詰めていくとイラストに行く気持ち、分かる気がします。ただ、このタイミングで関戸さんがこの選択をしたというのは驚きましたけどね。

関戸:広告の仕事をしていると、感覚と理屈のバランスがいつも難しいなと感じますね。ただ、今回は個人としてお願いされたこともあるので、あまり難しく考え過ぎずに暖簾が元々持つ表現手法と向き合ってみようと思ったんです。また、他のクリエイターの方々の作品と並んだ時のバリエーション感も意識して、グラフィカルな表現で勝負したほうが面白いだろうなとも思いました。

戸田:続きまして、今回企業が制作する暖簾のクリエイターとして参加された森本さんです。

森本:実は私は心から暖簾が大好きな人間でして、演劇など舞台の楽屋で使われる楽屋暖簾を京都の墨流しでよく作っているんです。なので、戸田さんが手掛けられるこのイベントになぜ最初から声がかからなかったのかな、と不思議に思って見ていました(笑)。

戸田:今初めて聞いた(笑)。

森本:私は12年前に広告代理店の博報堂から独立し、goen°という事務所を立ち上げまして、ご縁を大切にしながらアートディレクションの仕事をしています。

様々な広告制作はもちろんですが、本日は街とクリエイティブがテーマなので、街に関わったお仕事を簡単にご紹介します。少し前に新潟県の長岡市で建築家の隈研吾さんと一緒に、市役所と市民の交流拠点となる複合施設“アオーレ長岡”を手がけました。この施設は市役所なのにスケルトン・ガラス張りという前代未聞の建物。こうした施設をいきなり建てるとなれば、地元の方たちも反対されるだろうと思いましたので、毎月毎月商工会議所の方々や街をつくりあげてきた方々と1年間、ワークショップを行いました。話し合ったり飲んだりしながら、みなさんとコミュニケーションをとって、完成に至ったんです。結果として長岡市民全員で建築学会賞をいただくことになりました。

09

森本千絵作 東レ株式会社「World is made of various materials」

さて、今回の暖簾についてですが。私は企業部門で東レさんの暖簾デザインを担当しました。暖簾を作るにあたり東レさんをより深く知ろうと調べていくと、あらゆる素材の原点が東レさんにあることがわかったんです。そこで様々な原点が重なっている様子を、この暖簾で表現したいと考えました。海・林・太陽・街・光の粒など、それぞれ意味を持つ生地を何枚もレイヤーにして地球を構成しています。各要素が紡がれてひとつになっているデザインで、東レさんを表しています。

戸田:これはどうやってプレゼンしたの?

森本:中吊りサイズで一枚一枚作って、それぞれのレイヤーにコンセプトがあることを伝えました。会議室の壁に全部貼らせてもらってプレゼンしています。実際にくぐってもらったりもしました。

10

goen°アートディレクター 森本千絵さん

戸田:今日はせっかくクリエイターの方々に来ていただいているので、気になった他の暖簾についても話してもらいたいと思います。みなさんが気に入ったとおっしゃっていたのが、株式会社にんべんさんが制作した、かつお節の暖簾「めくる花のれん」と、クリエイター部門の長坂常さんが手がけた帯の暖簾でした。まずかつお節の暖簾についてお聞かせください。

倉本:かつお節のひらひらしている感じと暖簾が空中でひらひらしている感じが、こんなにぴったりくるんだというところですね。暖簾をくぐると、かつお節の中に入って進んで行く感覚を味わえる。

11

株式会社にんべん「めくる花のれん」

関戸:自分たちの商品をそのまま出せる潔さ、かっこいいですよね。

戸田:そう、かつお節への愛情も深く感じるよね。僕もすごくいいと思いました。暖簾ってとてもフィジカルなものだと思うんです。なのでこの暖簾の、商品を体感できるという感じがとてもいいなと。

森本:触りたくなるし、おいしそうに揺れている。かつお節の匂いがしたらいいですよね。くぐった時にふんわりとお出汁の香りがしたらさらに魅力的になる。

司会:当初は、お出汁で染めたいという話もあがっていて、本当はかつお節の香りをつけたかったという話を聞いています(笑)。

戸田:そうすると猫とかがずっと下に居座りそうですね、それも可愛いかもしれない(笑)。そしてもうひとつが、長坂常さんの帯でできた暖簾。

12

長坂常作「のれん」

関戸:これは、写真で見てもグラフィカルですごいですけど、実物を見るとプロダクトとしての存在感が強くて、格子状に編むだけでこんな印象になるんだと思いましたね。

森本:触りたくなりますよね。帯を組んでいくというのが、暖簾とマッチしている気がします。

戸田:モノ感としてすごく欲しいと思えるクオリティがありますよね。倉本さんは長坂さんと交流があるとのことですが、彼自身どういうような思考でこの作品を作り上げたと思いますか?

倉本:個人的にすごく仲がいいのですけれど、彼はじっとモノを見ながら考えて、そのモノが存在している要素の一番いいところを抜き出すのがすごく上手いです。いいものがあるならこのまま見せちゃおうという考えかと思います。

街の人が自分事として思えるきっかけづくりを

森本:暖簾ってあの大きさがいいですよね。アートディレクターってB倍サイズのポスターが好きじゃないですか。あの横長の大きなポスターは暖簾に近いですよね。

13

戸田:それでいうと、森本さんの名前を世の中に広めた、Mr.Childrenの広告にも通じるものがあるよね。多くの人と一緒に、横長の大きな堤防へ実際に歌詞を描いて撮影している広告。森本さんが普段手がける仕事は、先ほど紹介してもらった街づくりの事例もそうだけど、実際に触れられるものであったり、たくさんの人が参加できるものが多い。なぜそのような制作をしていこうと思ったの?

森本:若いころ、優秀なデザイナーの先輩がたくさんいる中で、自分は何を強みに、どういった思想で取り組んでいくべきかと考えていた時があって。その時に、ひとりでも多くの人とコミュニケーションをとりたい、という気持ちが自分の中で強いことに気づいたんですよね。それで、できるだけ多くの方に参加してもらえるものを作りたいと思って。そうした想いが制作してきたものにも表れているかもしれないですね。そして結果的に、バーチャルなコミュニケーションの時代の中で、希少価値のあるものとして受け入れられているのかもしれません。

戸田:本来、広告とは間逆の考え方ですからね。目の前にいる人が熱量を得られるというのはすごく面白いと思うし、街づくりの考え方に近い。倉本さんはプロダクトデザイナーとして世界最大規模の家具見本市であるミラノサローネなどに参加していますよね。そのイベント自体が街を巻き込んで行われているじゃないですか。そういったイベントも街とデザインの関係としてすごく面白いですよね。

14

NIHONBASHI MEGURU FESのクリエイティブディレクター/CC戸田宏一郎さん

倉本:ミラノコレクションのようなイベントもそうですけど、コンテンツがどうこう以前に、相当な数の人がひとつの場所に集まってワイワイしているという状況そのものが面白いですよね。そこに加えてこうしたイベントでは、集まった人たちに対してどのように次のきっかけを作っていくのか、というアイディアが必要なんですけど、その分野において森本さんはすごくお上手だと思います。わーっと集まっている人たちに矢印を示して、こんなことすると面白いんじゃないの?楽しいんじゃないの?ということを提示しながら作りあげている感じがします。

関戸:実は私が学生時代、たくさんいる学生メンバーのひとりとして、森本さんの仕事に参加したことがあるんです。とても楽しい雰囲気の中で参加したことを覚えています。

戸田:街づくりもそうですけど、みんなで楽しんでもらうコツはなんですか?

森本:街づくりで重要なのは他人事ではなくて自分事にしてもらうことですね。その人たちがやりたくなることをやり続ける。最初は私が走って進めていくけど、途中から私は一番最後を走っていて、ある意味置いてけぼりにされてしまう(笑)。最初は船長として始めるけど、最後には乗組員どころか船にも乗せてもらえずに、街の人たちの乗った船を見送っているみたいな時もあります(笑)。

戸田:倉本さんはプロダクトだけでなく、街づくりといった大きいことにも興味がありますか?

倉本:すごくありますよ。今はそういう時代かなと思っていて、個人の才能だけで高いレベルまで持って行くのには限界がある。全体の力を上手く活かすには、参加する人のやる気をMAXにしなくてはならなくて、どうしたらやる気を引き出せるのかの設計に興味がありますね。

クリエイターの視点から見た日本橋の街

戸田:今回のNIHONBASHI MEGURU FESのように、街の企業や地元の人たちを巻き込んで企画したり、コラボレーションの場を提供するというやり方ってすごく面白い。そして、そういったやり方においては“楽しい”っていうことが、とても大事な要素になりますよね。

15

森本:そうですね。そして日本橋と暖簾の関係性で言うと、暖簾にはプライドがあるというか、ずっとこの店を大切に守ってきたという想いがあると思うんです。暖簾の場合、作るにしてもただ楽しいだけじゃなくて、歴史やプライドに見合ったクオリティや技術が必要。歴史があるからこそレベルの高さが求められる街だから、その点で渋谷などの他の街とは違う。そういった意味で暖簾と日本橋というのは相性がよいと思います。

戸田:NIHONBASHI MEGURU FESを通じて、街の人とおつき合いして感じたのは、チャレンジ精神旺盛で、変えていきたいという想いをみんなが持っているということ。伝統を大事にし過ぎて今までのやり方を変えないと考える人が多いと思っていたので驚きましたし、私たちも見習うべきだと思いました。

関戸:私が感じたのは、日本橋は残すものとアップデートするものを見分けることが上手な場所だということです。そんな場所が日本橋以外にも増えて、それぞれのアイデンティティを保ちながら、色々な人を巻き込む街づくりが広がっていくといいなと思いますね。

倉本:実は渋谷や日本橋の大規模な開発を見ていて、やめておけばいいのになぁ、と個人的にはあまり良く思っていなかったんですよね。けれどもこのプロジェクトに参加して色々な人が様々な想いで丁寧に日本橋のことを考えていることがわかりました。中に入ってみると熱い想いを持っている人がたくさんいるんです。そのひとつとして「めぐるのれん展」が実現したわけですが、参加したことで都市開発って悪くないかもなって思えるようになりましたね。

戸田:NIHONBASHI MEGURU FESの話をいただいて以来、都市開発ってどういうやり方があるんだろうって考えて続けているわけですが、残しながら蘇らせていこうという思想を持つこのプロジェクトはとても勉強になる。クリエイションの力で一緒になってやれることはたくさんあるので、クリエイターに限らず仲間を作れるような場を生み出し、人と街を繋げていければいいなと思っています。今日はみなさんありがとうございました。

16

取材・文:安井一郎(konel)  撮影:岡村大輔

Facebookでシェア Twitterでシェア

TAGS

Related
Collaboration Magazine Bridgine