Interview
2019.10.16

職人との表現のコラボレーション。ストーリーを帯びた「一コマ漫画」暖簾。

職人との表現のコラボレーション。ストーリーを帯びた「一コマ漫画」暖簾。

【めぐるのれん展クリエイターインタビュー vol3.関戸貴美子さん】

9月27日から日本橋で約2ヶ月間にわたり開催されている「NIHONBASHI MEGURU FES」。その中の一つ「めぐるのれん展」では多様なクリエイターが参加し、「日本橋の街を表現する暖簾」をデザインしています。10月11日(金)からの展示に合わせ、暖簾の制作に挑戦した若手クリエイター3名に、連続インタビューをさせていただきました。
第3回にご登場いただくのは、「ゼスプリ キウイブラザーズ」や「大塚製薬 ion water」などのアートディレクションを手がける株式会社電通の関戸貴美子さん。近年広告関連の賞も数々受賞されている関戸さんに、今回の作品に込めた想いや表現方法についてお話いただきました。

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暖簾で、誰でも日本橋という街を理解できるようなノンバーバルなコミュニケーションを目指す。

−まずは、関戸さんが制作された暖簾の企画意図を教えていただけますか。

仕事で広告を制作するときには「狭い世界に閉じたアウトプットにしない」ということを心がけています。その考えをもとに、日本橋にオープンする新施設の玄関に飾られる暖簾として、今まで日本橋が生活動線になかった人も興味を持てるような暖簾を制作しようと思って取り組みました。

-具体的には、どのように暖簾のデザインに落とし込んでいったのでしょうか?

制作するにあたり、暖簾はもともと文字が読めない人でも何の店か判別できる機能をもち、看板として役に立っていたことを知りました。人を選ばずに機能するノンバーバルな点にヒントを得て、日本橋の歴史を知っている人が見て納得できるのはもちろん大事ですが、日本橋の知識が何もない人や、たまたま通り掛った人が遠目から見ても、「楽しそうな場所だな」「活気がありそうな場所だな」、とポジティブな印象を持ってもらえることを目指しました。

また、日本橋の歴史を学んでいく中で、江戸時代には魚市場が賑わい、舟運物流が活発だったことや、公儀御用の高級魚(鯛)を生かしておいた「活鯛屋敷(いけだいやしき)」があったという話が非常に印象的だったんです。そこから“鯛”を暖簾のモチーフにしたいと思い、日本橋を活気づけていた川と共に描くことにしました。震災や戦火に見舞われ、魚河岸もなくなり、一時期は停滞していた印象もありましたが、橋の改修や昨今の再開発を経て、今の日本橋は賑わいを取り戻しつつあります。「“今”の日本橋を、江戸時代の鯛に見てもらいたい。」というある種漫画的な発想から生まれたのが、今回のデザインです。

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「昔からの日本の良さを引き継いでいるブランドなどの店舗に暖簾がかかっているのを見て、いつか作ってみたいなと思っていました」と語ってくださった関戸さん。

−とてもかわいい鯛で、様々な世代の方が楽しめそうですね。漫画的な表現をされたのにはどのような意図があるのでしょうか。

鯛をキャラクターのように表現したことに関しては、作品とそれをご覧になる方との環境が関係しています。

展示場所であるメトロに繋がるエントランス部は、往来も多く、立ち止まらず歩きながら遠目に見る人も多いと思いました。そのためパッと見ただけでも目を引くようなアイコンを作りたかったのです。

一方で、作品のそばに来てくださった方には、一瞬くぐるだけのものかもしれないけれど、「一コマ漫画」のようなストーリー性を持たせ、作品に感情移入をさせたいと思いました。なるべく難しくなく、わかりやすく、キャッチーである、という自分がデザインで大切にしている部分も表現できたので、様々な方にくぐっていただけたら嬉しいです。

また、今回のお話をいただいた時に、展示作品のバリエーションの豊かさも意識しました。全ての作品が並んだときのバランスを考えながら表現するというのも、自分らしいやり方なのかなと思っています。

新たな色や、デザインの表情が職人とのコラボレーションで生み出される

-実際に制作をする中で苦労された点や、印象的だったことはありますか?

お話をいただく前から暖簾を作ってみたいなあと思っていました。しかし、どんな技術を持った職人さんが携わっているのか具体的には知りませんでした。

今回せっかく暖簾を作る機会をいただけるのであれば、技術ある職人さんとコラボレーションのような形でできたらいいなと思い、サンプル制作の段階からそこを意識しながら進めていきました。

制作初期にラフ画を渡して、サンプルが上がってきたときはとても感動しました。というのも、今回は、筆を用いて直接生地にフリーハンドで染める素描友禅の職人と制作したのですが、ラフ画の再現度がとても高かったからです。こちらが意図していなかった筆の“掠れ”までが忠実に再現されていたんです。感動を覚えたのももちろんですが、ここまで細かく再現してくださるので、職人さんが迷わないように、自分の意図している表現をきちんとお伝えしなくてはいけないと気も引き締まりました。

―制作過程の中で、普段の仕事とは異なる発見などはありましたか?

以前、葛飾北斎の展示で画集では再現できないような鮮やかさを持っている現物を見て、普段見慣れている色の幅はなんて狭いのだろう、と思ったことがありますが、今回も“色”に関しては、新鮮さを感じることが多かったです。

仕事柄、CMYKとRGB構成で成り立っている、紙媒体の印刷やオンスクリーンの仕事が多いのですが、今回の暖簾の色付けは染料で直接着彩したため、普段の仕事とは違う発色と質感を感じることができました。

また、自分のラフ画に対して、職人さんが素描友禅に適した描画方法に置き換えてくださったのも面白かったです。

例えば水しぶきは、ラフでは海面と区別するために、別の水色を使ったベタの丸で表現していたのですが、サンプルでは海面の1色のみを使ってグラデーションで表現されていました。色数を減らしてシンプルになった上に、立体感も出ました。プロの仕事だなと感動しましたね。

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ラフ画とサンプルを比べてみると、色や掠れ具合など、職人の表現で作品自体の表情が微妙に変わることがわかる。

-今回は「日本橋の街」という創作テーマでした。街を舞台にした創作活動というのはなかなかないものかと思いますが、どのような点に面白さがあると感じられましたか。

日本橋という街を調べたり、歩いたり、今後の街の開発のお話を伺うなかで、街の人格を理解することの面白さと重要性を感じました。街づくりは、その最たる例だと思います。街の人格を表現するにあたり、「何を残すべきか」を取捨選択してアップデートする必要があると思います。そのような難しさがある中で、日本橋は“日本人が馴染みのある日本らしさ”と、“海外の方が写真を撮りたくなる風景”のバランスが絶妙で、居心地が良く、シズル感のある場所だな、と。たとえば、単純に日本らしいということで「江戸の頃の日本橋」を再現してしまっては、ハリボテのようになってしまいますが、とてもうまいバランスで構成されているなぁと思いました。

今は“海外の方向け”“観光向け”も重要視される時代ではありますが、「街」という対象は外から来た人だけでなく、中にいる人にも親しまれることがとても重要ですよね。画一的にせず、その街の個性をきちんと活かしたデザインがされていくと素敵です。そのような意味では、企業や商品の人格を作っている私のアートディレクターとしての仕事内容と共通点があります。

今回の暖簾もそんなことを意識して作った作品なので、くぐってくださった方々が日本橋に少しでも興味や親しみを持ってくれたら嬉しいです。

取材・文:古田啓(Konel) 撮影:岡村大輔

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