Interview
2019.10.11

未来の日本橋に想いを馳せて。 色と加工で、暖簾のアップデートを表現。

未来の日本橋に想いを馳せて。 色と加工で、暖簾のアップデートを表現。

【めぐるのれん展クリエイターインタビュー vol1.矢後直規さん】

9月27日から日本橋で約2ヶ月間にわたり開催されている「NIHONBASHI MEGURU FES」。その中の一つ「めぐるのれん展」では多様なクリエイターが参加し、「日本橋の街を表現する暖簾」をデザインしています。10月11日(金)からの展示を前に、暖簾の制作に挑戦した若手クリエイター3名に連続ショートインタビューをさせていただきました。

インタビュー第一弾にご登場いただくのは、ラフォーレ原宿の広告のアートディレクションを長年手がけ、最近では「ZIPAIR」等の事業デザインも含めたプロジェクトを推進されている株式会社SIXの矢後直規さん。来年2月には個展「婆娑羅(仮)」の開催も控えている矢後さんに、今回の作品に込めた想いや表現方法等についてお話いただきました。

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色とプリーツ加工で、街の新陳代謝と色気を表現。

−まずは、矢後さんが制作された暖簾の企画意図を教えていただけますか。

“暖簾のアップデート”を目指し、昔から存在している縄暖簾(縄を結び垂らして作られ、飲食店舗などでよく用いられている暖簾)、すだれ暖簾(細い丸竹や割竹を縄や細紐で編み込んだ、地方の町家などで使われている暖簾)などに続くような次世代の暖簾のジャンルを自分なりに表現したいと考えました。表現手法や技術も進化しているので、今の時代だからこそできる新しい暖簾のジャンルに挑戦したいなと思って着手しました。

普段から常に、「未来にあるイメージ」を意識していて、アートディレクターとして描いたまだないイメージが、現実に作用していくような提案したいと心がけています。なので今回は自分が新しい暖簾のジャンルを提案することによって、今後の暖簾のイメージがアップデートされるきっかけになったらいいな、と思って臨みました。

-具体的に、どのような視点からアップデートを考えていかれたのでしょうか。

まずは、「誰もが想像する暖簾の色と形」を変えたらどんなことができるか、という目線で考えていきました。華やかで楽しいものがあってもいいし、形状は平面でなくてもいいかもしれない。

また、昔と違って新しい生地素材もあるし、加工技術や印刷技術だって進んでいますよね。制作過程に纏わる様々なことが発展している今だからこそできる表現、さらにその表現が未来に繋がるようなものを作りたいと思いました。

今までの暖簾の表現にはなかったような色と技術を組み合わせて、古いものと新しいものが融合する“日本橋”という街を表現したいと思ったんです。

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「アートディレクションの役割は、目指すイメージを形成すること。そのイメージに向かってみんなが向かっていけたらいい」と、最近ではブランディングや事業デザインのプロジェクトにも多く関わっている。

―とても華やかな色味ですよね。色にはどのような考えを反映されているのでしょうか。

“ワントーンで落ち着いている”という既存の暖簾のイメージを変えてみたいという考えを持っていました。そして、僕が日本橋に関わってみて非常に印象的だった“伝統を守るための新陳代謝”という考え方を色で表現したいな、と。時代とともに自分たちが変化することが伝統を守ることに繋がる、という日本橋ならではの考え方を、カラフルな表現に落とし込みたいと思ったんです。

青、緑、黄、紫の4色を使っているのですが、この色のバランスにも意味があります。“アップデート”を表現するからには、トラディショナルでもポップでもダメだな、と。例えば、藍色や歌舞伎の定式幕のような3色だとトラディショナルになりすぎてしまって、アップデートにならない。かといって、赤・青・黄のような使い方だと既存のものからかけ離れすぎて「アップデート」ではなくなってしまうんですよね。その中間をうまく組み合わせたいと思い、今の4色になりました。また、一面黒で覆われている中に4色を潜ませることにより、風や人の手で布が動いたときにこの4色が現れます。これによって、色彩にインパクトを持たせられるように設計しました。

―新しい加工技術にも挑戦されたとうかがいました。

はい。今回暖簾の制作にプリーツ加工を取り入れました。プリーツ加工を暖簾に使うということ自体も新しい表現ですが、このプリーツの形状にも意味を持たせています。各色のブロックごとにプリーツの幅を変えているのですが、これは日本橋の街の“色気”を表現するためです。日本橋の街、人はどこか“色気”があるなと思っていて。「粋の構造」という本があるのですが、それを読むと日本橋でよく言われる“粋”という言葉にも“色気”という意味が含まれているんですね。なので今回制作するものもどこか“色気”をまとわせたいと考えました。実際にプリーツの幅を一定の幅にせず、数ミリずつずらすことで、見た目に奥行きが出たり、流れができたりするな、と。オートマチックにせず、思考や狙いが入ることで、グッと色気が出たと思います。

今までの暖簾の表現手法にはなかったような色や形状を、この暖簾では実現できていると思っています。

暖簾の新しい姿を見て、日本橋の未来を想像してもらいたい。

-暖簾という伝統的なフォーマットで、新しい表現をされるにあたり、苦労されることはありましたか?

プリーツ加工には苦労しましたね。何度プリーツ部分の試作をしても、折り目が緩んでしまっていて、ピシッとした理想のプリーツにならなくて。諦めるという言葉も浮かびかけたところで、一度プリーツ加工は置いておき、染色の発色試験をしようということになりました。そうしたらそこでブレイクスルーが生まれたんです。

生地を染めるときに加熱するのですが、なんとその加熱の効果がプリーツの定着にも一役買うことがわかって。プリーツ加工だけに着目していたために、何度試作してもうまくいかなかったのですが、染めて色をつけるということも含めた制作の一連の過程でピシッとしたプリーツも実現する。これがわかったときは、うれしかったですね。プロデューサーの中村新さん(暖簾の加工技術の提案や制作サポート等、職人とクリエイターを繋ぐ役割)や、職人さんがいなければ自分が作りたいものが実現できていなかったと思います。

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製作途中のサンプル。光の加減で色の透け方や見え方も変わり、くぐるたび、見るたびに違う表情をみせてくれそうな新たな暖簾の形。このプリーツの理想的な「角」を出すまでには多くの試行錯誤があった。

-最後に、日本橋の街に対するお考えをお聞かせいただけますか。

日本橋のことを知れば知るほど、一般的に思われるほど敷居は高くないのかも、と感じましたね。行きづらかったバーに足を踏み入れたときの感覚と同じで、入ってみると意外と入りこみやすいな、と。

日本橋の街が今後もっと発信力を高めていくためには、そうした敷居の高そうなイメージを少しずつ変えて、今既に日本橋が持っている楽しい部分を外向けに、あえて派手に表現していくやり方もあるんじゃないかな、と思っています。

藍色で一見地味なイメージの暖簾から、カラフルなプリーツの暖簾へアップデートした今回の表現が、これからの日本橋の未来を想像してもらえる一つのきっかけになってほしいですね。

取材・文:古田啓(Konel) 撮影:岡村大輔

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