Interview
2019.07.03

クルマは素材で進化する。
東レの技術とコラボレーションがつなぐ、自動車の未来。

クルマは素材で進化する。
東レの技術とコラボレーションがつなぐ、自動車の未来。

100年に一度と言われる変革期を迎えている自動車業界で、基礎素材メーカー「東レ」の技術が大きな貢献をしていることをご存知でしょうか?今回は、この注目分野を担当する自動車材料戦略推進室(取材当時)課長の田中基仁さんを訪ねました。自動車をアップデートする高機能素材の開発だけでなく、その技術を“どう伝えるか”も大切だと語る田中さんに、その試行錯誤からこれからのチャレンジまで、さまざまなお話を伺いました。

世界を渡り歩き、自動車素材のエキスパートに。

―最初に、田中さんのこれまでのご経歴について教えてください。

もともとは総合職の事務系で入社しました。私が入社した当時は、東レではメーカーとしての基本を学ぶため、事務系の新入社員も全員1年間工場に配属になったのですが、私はなぜか「樹脂技術部」という完全に技術系の部署に配属になりました。その後樹脂関連の営業を担当するようになり、現在に至るまでほぼずっと自動車用の樹脂に関わってきています。東レの営業はいわゆるセールス営業だけでなく開発営業としての役割もあり、主な顧客である自動車関連の部品メーカーを回って高機能プラスチックなどの技術を紹介しながら、相手方のニーズを聞いて次の開発につなげるという担当をしていました。

―事務系で入られたのに、かなり技術寄りのところをご担当されてきているんですね。

私はいわゆる文系の人間なので、数学や物理なんて大嫌いだったんですが(笑)。最初の年に樹脂技術部にいた時は化学式もまったくわからないし、「私はこの部署で何をしたら良いのか・・・」という状態でした。でも先輩方に教えられながら勉強して徐々に知識も増え、今は社内の各分野のことは一通り精通していると思います。

―営業で経験を積んでからは、どんなことに取り組まれてきたのでしょうか。

国内の各地で営業を担当したあとは、社内の公募制度に手を挙げて合格し、海外若手実務研修に行くことになりました。数ヶ月間英語を学んだのちに米ミシガン州にあり樹脂関連商品を扱う「トーレ・レジン」社で研修し、そのまま同社に配属され計7年半ほどアメリカにいました。当時はトヨタなど日系のメーカーを主に担当していましたね。その後中国の蘇州、広州、上海や香港などでも勤務し、2016年に東京に戻って現職を担当しています。日本橋に勤めるのは約20年ぶりで、あまりの街の変わりように「一体ここはどこなんだ?!」と衝撃を受けましたよ(笑)

―まさに世界中を渡り歩いてきたんですね。自動車向け樹脂がメインのご担当とのことですが、具体的に東レの素材が使われている事例を教えて下さい。

実に多くの部分に使われています。まず、CO2削減に向け車を軽量化して燃費を上げたり、電気自動車のパワートレイン(駆動装置全般)の性能向上などを実現したりするためには、従来の金属に代わる軽くて丈夫かつ安全な高機能素材が不可欠です。それには東レが持つ炭素繊維やエンジニアリングプラスチック等の多くの素材が活躍しています。また軽量化以外にも、車の安全性に必要な繊維の技術を応用したエアバッグ用テキスタイル、車の電装化に必要な衝突センサーやディスプレイに使われる素材、車の室内の快適性を高める吸音材など、多くの素材の提供が可能です。これらの素材の性能と実用例を一目で見られるように、TEEWAVE AC1というコンセプトカーも作っています。

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TEEWAVE AC1のパンフレット。東レのさまざまな技術が一台の車に詰め込まれている

東レの自動車関連事業「AUTOMOTIVE SOLUTIONS」 紹介動画

―1台の車を構成できるほどの素材…かなり幅広い種類の素材・技術をお持ちですね。

100年近い東レの歴史の中で重ねてきた幅広い分野の研究開発が、これだけの種類の製品につながっています。中でも特に炭素繊維複合材料は近年注目されており、これを使うことで車は大幅に軽量化することができます。ただ、この素材は部品の成形に時間がかかり、製造コストも高いことからなかなか値段が下がらないのが課題です。そして業界的にも昨今はコストに非常に厳しくなっているため、どんなに良い素材でもなかなか思うように広く流通していないという現実があります。だからただ軽いだけじゃダメなんです。例えば、振動しにくいなど、他の技術と組み合わせて何か付加価値を付けないとなかなかマーケットに受け入れられない。そこが悩ましいところですね。

―何かマーケットに対して付加価値を提供するアイディアはありますか?

付加価値を付けることに対しては各部署が日々努力中ですが、マーケット自体を作るという視点もありますよね。少し極端な例になりますが、車ではなかなか軽いことが価値にならなくても“空飛ぶ車”となると話は変わってきます。軽量化が非常に大きな意味を持つのが航空業界ですし、東レはもともと飛行機にも素材を提供していますから、自動車×飛行機が実現したら新しいマーケットが生まれて私たちの技術が大いに活躍します。だから私としては車には飛んでもらった方が良いんです(笑)。昔はSFの世界にしかなかった乗り物でも、近年はもう未来の話ではなくなってきていることがたくさんあって、空飛ぶ車に関してもかなり現実的な話になってきていますね。

自動車材料戦略推進室は“なんでも屋”? 人や組織を横串でつなげ、コラボレーションを生む。

―なるほど、そのまま売るだけでは足りないということがよくわかりました。だからこそ田中さんの部署の戦略が必要になってくるんですね。

そうですね。自動車材料戦略推進室は、東レの持っているさまざまな素材を自動車用途向けに紹介する部署。繊維や樹脂など、各事業部に横串を刺してコーディネイトし、顧客に対してワンストップで提案します。「どんな形になるかわからないけれど、こんなことをやりたい」といった漠然としたニーズにも向き合い、この要望なら樹脂部署のこの人に相談しようか、あるいは炭素繊維のこの部隊と一緒に組むのが良さそうだ、といったアレンジをして企画提案までする、いわば“なんでも屋”ですね。 言い換えれば私たちの部署はこれをやらなくてはいけないという業務はなくて、何でもできるし、逆に何もやらなくてももしかしたら現状維持くらいならできるかもしれない。でも技術の世界は5年後10年後を見据えて種まきをしなければいけない世界です。だからこそ、“今”私たちがさまざまな人を巻き込んで戦略を立てていくことに存在意義があると思っています。技術だけでなく、営業やそれ以外のスタッフ部署の人とも幅広く連携しながら活動しています。

―とてもクリエイティブな業務ですね。部署を超えたチームを組成するには、社内組織や技術をよく理解している必要がありますよね。

それは大いにあります。大きな会社なので、私も自分の部署に直接関わるメンバーはよく知っていますが、それ以外は知らない人の方が圧倒的に多い。だから研究発表会や懇親会にも積極的に顔を出して、社内の人脈作りをすることが実はとても大事なんです。何か顧客から相談を受けた時に「それならあの人に頼もう」とパッと顔が浮かぶか否かはその後の成功に向けた大きなポイントになりますね。技術系の会社は縦割りになりがちですが、横の連携を促すジェネラリスト的な立場の人員は今後さらに必要です。必ずしも全ての分野を深く理解していなくても良いのだし、いざやるとなった時にスペシャリストを連れてくれば良いんですから(笑)

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―社内をつなげるほかに、会社を超えて社外とコラボレーションする事例はあるのでしょうか。

自動車業界では、他社との協業はよくあることです。私たちの場合は部品メーカーや成形メーカーと組むケースが多いですね。作ろうとする物の材料に社内だけでは解決できない部分がある場合に協業するイメージです。例えば、軽量化のために金属と炭素繊維複合材料を組み合わせようとなった時、両者を接着する技術が必要になってきます。でも我々には接着剤の知見はないので、そこは接着剤の会社に開発をお願いしよう、ということでコラボレーションが生まれるんです。特に技術部署は他社と組む事例が多いので、協業に関してはオープンに考えています。

BtoC視点をヒントに営業力を強化。技術を広めるポイントは“伝え方”にあり。

―今取り組まれている新たなチャレンジはありますか。

私たちは技術を組み合わせて顧客に提案する部署なので、“伝える”ということが重要だと思っています。その考えのもと、伝わりやすい環境を整えることと、環境を整えた上でどう伝えるか、という二軸で今試行錯誤しているところです。

―まず、伝わりやすい環境を整えるとはどのようなことでしょうか。

具体的にはマーケティングオートメーション(以下MA)や自動車関連素材のウェブサイトの改善などがあります。 MAに関して言うと、今までの私たちは良くも悪くも属人的で「とにかく会って話して来い」という風潮が根強かったのですが、デジタル化が進む中で営業にも効率化が必要と考え、1年ほど前から導入しています。例えば今までは展示会でたくさんの名刺を頂いてもうまく活用できていなかったのですが、今はMAを活用して相手の興味に合わせた情報を送るようにしています。それで関心を上がってきたところでアポイントを取って直接会うなど、効率的なアプローチにつながるようになってきました。まだまだ始めたばかりの取り組みですが、遊軍的な立場の私たちの部署がまず取り入れて、良い形で社内に広げていければと思っています。

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展示会『人とくるまのテクノロジー展2019 横浜』 の様子

またウェブサイトに関しては、以前から自動車関連のサイトはあったものの、充実しているとは言い難い内容でした。しかしサイト経由で私たちのことを知る顧客も当然いますし、東レの自動車関連素材のことが詳しくわかるようなサイトにしたくて全面的に手を入れました。見てもらうためには魅力あるコンテンツも必要なので、絶えずリニューアルするつもりで内容を見直しながら、ニュースの発信などで最新の情報が集まる場所にしていきたいと思っています。

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東レ AUTOMOTIVE SOLUTIONSのウェブサイト

https://www.automotive.toray/jp/

―技術を伝えるための土台をアップデートされているんですね。ウェブサイトなどを通してどんな風に東レを見せていきたいですか?

ウェブサイトを訪れた人に、東レのビジョンや技術が具体的なイメージをもって伝わることを目指したいです。その上で“東レと組んだら何か新しいことができそう”という期待感を持って頂けたら嬉しいですね。 それと、MA活用やウェブサイト整備など、伝えるための環境を整えることは当然大切なのですが、その上でやはり顧客としっかり対面コミュニケーションを取ることが全ての基本だと考えています。先のような期待感も、やはり人から感じることだと思うので。個別のニーズから普遍的な動向まで、メディアからの情報だけでなく、顧客に実際に話を聞いてリアルなところを確認する。そこは地道な作業ですね。

―もうひとつのチャレンジ、“伝え方”の部分はどんな取り組みをされているんでしょうか?

長年営業に携わっていると、伝え方はとても重要だと思う場面が多くあります。私たちは技術の会社なのでどうしてもデータを全面に出して「この技術で強度が○%も上がるんです!」みたいな表現をしがちなのですが、これは顧客からすれば「だからどうした?」になりがちなんですよ(笑)。そうではなくて「強度が上がるとこんな物が作れて、こんなに用途が広がる。だからこんな形で皆さんの役に立ちますよ」と言うくらいの見せ方をしないと。そのためには技術的なバックデータはもちろん必要ですが、それだけではない一歩踏み込んだイメージしやすい提案をすることを目指しています。

―BtoBで最先端技術を扱いながら、その見せ方はBtoC的なところがあるのでしょうか。面白いです。

業務内容はBtoC業界とは全く違いますが、見せ方は参考にすべきだと個人的には思っています。技術の会社も少しずつ変わっていかないといけないし、わかりやすい形で外に向けて発信していくことは必要です。私が入社した頃の社内はプロダクトアウトの志向が強くて技術主導の傾向がありましたが、今は技術部署も顧客の意見をよく聞きますし、ニーズに対してどんな技術を開発するかという発想になってきました。だから私たちからも顧客に理解されやすいようなデータを技術部署に求めたりと、社内のコミュニケーションを密にして顧客に向き合うようにしています。技術をそのまま出して何でも売れるような時代ではないですからね。

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100年に一度の大変革期。異業種の力を結集して、自動車の未来を作りたい。

―今後はどんなことにチャレンジしていこうとお考えですか?

先ほども少しお話したように、やはり素材に付加価値をつけて世の中に出す、ということですね。今、自動車業界は100年に一度の大変革期と言われています。CASE(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字)というこれからの自動車のキーワードを示す用語もメディアでよく取り上げられていますが、私たちは素材という視点からこれらに向き合っています。「クルマは素材で進化する」というスローガンのもと、今までできなかったことが東レの付加価値の高い素材で実現できたら本望です。

―将来に生かせる東レの強みはどんなところでしょうか?

総合力や技術力を評価して頂くことが多いですし、実際そこが一番他社の真似できないところだと思っています。東レは繊維から始まって、フィルム、ケミカル、樹脂、電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬・医療、水処理・環境といった、非常に幅広い分野を扱っています。だからこそ、ひとつの素材に付加価値を付ける際も、社内のあらゆる部署の技術を生かせるのが強みではないでしょうか。現在東レの自動車関連素材の売上は約10%ですが、今後もどんどん伸びていくと思います。

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東レの商品の一部。自動車向け素材以外にも、衣料品用の繊維素材から医療器具まで取扱い分野は多岐にわたる

―近年、デンソーの東京支社が日本橋に移転したり、トヨタのTRI-AD(※)が新たに日本橋にオフィスを構えたりと、モビリティ関連の会社が日本橋に集まってきています。

※自動運転の人工知能技術などに取り組むトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)における世界最先端の研究成果を具現化するベンチャー企業。

同じ業界の企業が近くにいるのは大きな利点だと思います。わざわざ新幹線に乗らなくても気軽に対面コミュニケーションを取れることは重要です。でも私たちがその方々を直接知っているかというと実はそうでもないので、会社を超えた交流が生まれる場があったら良いですね。どこと何をしたいかという具体的なイメージはまだありませんが、私たちが持っていない技術やファンクションを持つ組織や企業と組みたいです。東レが幅広い分野を網羅しているとはいえ、一社ではまだまだ技術の幅や発想にどうしても限界があるので、同じ目線で協業していける相手先とつながりたいです。

―各分野の技術が組み合わされれば、いつか日本橋からモビリティの未来を変えるような取り組みが生まれるかもしれませんね。

そうなったら面白いですね。また、技術的に幅広い可能性がある一方で、法規制など技術だけでは解決できない新たな課題が非常に多いのがモビリティ業界です。だから多くの異業種の組織や企業の力を結集して、国や世界をも動かしていくつもりで取り組む必要があります。そこで私たちの役割である、戦略的に伝えたりつなげたりというノウハウを活かすことができれば嬉しいですね。

取材・文:丑田美奈子(Konel) 撮影:岡村大輔

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