Interview
2019.05.17

オープンに、柔軟に、外部との共創に取り組む。創業320周年「にんべん」のチャレンジ。

オープンに、柔軟に、外部との共創に取り組む。創業320周年「にんべん」のチャレンジ。

2019年に創業320周年を迎える「株式会社にんべん」。“本物の味”にこだわりながら、時代に合った鰹節のスタイルを提案してきた同社は確固たるブランド力を活かし、他企業・ファンとのコラボレーションや、次世代社員の育成など、様々な新規のチャレンジに取り組んでいます。気軽に“本物の味”が楽しめる「日本橋だし場」など新業態を手がけた髙津克幸社長と、会社が抱える課題を解決するためのヒントを求めて資格取得や社外の勉強会への参加に主体的に取り組む総務部の津田あすかさんにお話を伺いました。

“粋な大人”がたくさんいる街。店や業態を超えて継承される日本橋のDNA。

―まず、にんべんの沿革と事業形態について教えていただけますか?

髙津克幸社長(以下、髙津):私たちは江戸時代の鰹節問屋にはじまる、鰹節や加工食品を製造販売している食品メーカーです。1699(元禄12)年の創業以来ずっと日本橋の地に店舗を構え、メーカーと小売の両方を行ってきたというのが弊社の特徴の一つですね。現在、事業として最も大きな割合を占めるのがスーパーマーケットや食料品小売店への卸販売で、次に百貨店や食料品小売店での販売です。鰹節だしを使った料理が味わえる飲食店として「日本橋だし場 はなれ」の運営も行っています。

―「BtoB」と「BtoC」の両方に取り組んでこられたのですね。創業時に実践された、「現金掛け値なし」のお話も有名ですが、常に消費者の方を向いた老舗企業という感覚があります。

髙津:「商品に見合った正しい価格をお客様に提示する」という企業精神は、初代から一貫して大事にしています。ただ、私たちは自らを“老舗”と名乗ることはいたしません。これは「榮太樓總本鋪」(同じ日本橋で江戸時代からのれんを掲げる和菓子店)の細田安兵衛さん(現・同社相談役)に言われたことでもあるのですが、「お客様に認められてこその老舗」ということなのだと考えています。時代の波に合わせて、お客様に支持していただけるような仕事をすることで、結果的に歴史が積み重なってくるのだと。

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江戸時代に創業した初代から数えて、13代当主となる髙津克幸社長

―日本橋のお店同士、つながりもあるのですね。

髙津:ええ、たくさんの先輩方からかわいがっていただいています(笑)。中でも細田安兵衛さんには色々なことを教えていただきました。あるとき、どうしてこんなに自分のことを気にかけてくださるのか尋ねたところ、「あなたのおじいさんにはお世話になった。私は同じことをしているだけなんだよ」とおっしゃったんです。日本橋には、家族ではないけれど、まるで父親や祖父のような存在の粋で頼もしい大人が大勢いるんですよ。

―お店や業態をクロスして、教えを請うというのは他の街ではなかなか聞きません。

髙津:細田安兵衛さんは私より40歳近く年上ですが、年齢が離れていることがいいのかもしれませんね。日本橋は歴史の長いお店が多いため、店舗ごとに幅広い年代の当主がいます。そして、年長者が下の世代に街や商いについて教えてくれる。皆が同世代だったら、日本橋の街としてのDNAが一度に途絶えてしまうこともあったと思うのですが、それがなかったんです。昔から商業の街として栄えてきた背景には、そんなことも関係しているのではないでしょうか。

日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)やだしアンバサダー、“外部の声”を取り込みプロジェクトを実行。

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「COREDO室町1」の1階入り口にスペースを構える「日本橋だし場」。2018年3月までに「かつお節だし」は累計90万杯を提供

―髙津社長は2010年に日本橋本店を移設し、その一角に「日本橋だし場」(NIHONBASHI DASHI BAR)を手がけられています。「本物のだしを気軽に味わえるスタンディングバー」という企画はチャレンジだったのではないでしょうか?

髙津:実はそうでもなかったんですよね。現在の日本橋本店はそもそも、日本橋室町地区の再開発に際し、新しいビルに移るまでの仮店舗でした。それで、せっかくだったら色々実験してみようということになったんです。当時の鰹節といえば、お歳暮やお中元の贈答品として購入されることがメインでした。新しい店舗では試飲だけでなく、だしの引き方、活用術などについてお客様とスタッフとがコミュニケーションできる場として、新しい切り口でアピールをしたいという思いがありました。

そんな中で開発担当のデベロッパーの方から、「引きたてのだしのテイスティングを楽しめる店舗ができないか?」と、今の日本橋だし場に至るご相談をいただきました。それを受けてやってみようかと始めたところ、予想以上の方にご来店いただいて。他にも、本枯鰹節の削り実演やだしを生かしたお惣菜、日常づかいできる商品などの販売も行う体験型店舗として、仮店舗ではなくそのまま営業を続けることになったんです。

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日本橋本店店内の「日本橋削り場」で行われる本枯鰹節の削り実演

―若い世代の利用も多く、コーヒーを飲むようにカジュアルにだしを楽しまれているお客様の様子が印象的ですね。だしの魅力を伝える「にんべん だしアンバサダー」の取り組みも気になります。

髙津:こちらも外部企業の方からのお声がけをきっかけに始まったプロジェクトです。この活動は、女性に向けてだしの魅力や活用方法を伝えたいという思いから、2014年10月にスタートしました。弊社が主催する「おだし教室」や、プロの料理人がだしの活用術を教えるワークショップなどに参加された方をアンバサダーに認定し、商品企画会議やスキルアップ講習会に招いています。また、SNSでの発信だけでなく勤務先のオフィスで弊社の商品をPRしていただいたり、イベントを主催していただいたりと、 それぞれ好きなスタイルでだしの魅力を伝えていただいています。現在、約200人の方が活動しています。

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だしアンバサダーの2期生が開発に関わった「美味しあわせ かつお節」「だしあわせ かつお節」は、ちょっとしたお祝いごとやブライダルギフトなどを意識して考案された

―にんべんの社員数とほぼ同数ですね!だしアンバサダーの方のインスタグラムを拝見していると、みなさんが主体的に参加されているのが伝わってきます。

髙津:担当者は当初、この活動が弊社からの一方的なものになるのではないかと不安視していました。しかし、実際に始めてみると、むしろアンバサダーの方から「にんべんはもっとこういう部分や商品をPRした方がいい」というような意見が多く寄せられました。また、弊社は教育機関で鰹節を啓蒙するための体験講座を開催しているのですが、この活動を通してアンバサダーの方の中にも、「自分たちが鰹節を広めたい」「語り手としてもっと活動したい」という思いがあるということに気づきました。今では、アンバサダーが担い手となって、食育におけるだしの重要性を熱心に伝えてくださっていて、良いマッチングが生まれていると感じています。本プロジェクトは今年で6年目になりますが、今後はアンバサダーの方々のおかげで再認識できた弊社や事業の強みを具体的に活かすことが課題ですね。

社内の課題解決には、「組織の新陳代謝」と「外部の視線」が必要。

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入社9年目となる、総務部の津田あすかさん

―お話を伺っていると、とても積極的に社外の意見を取り込まれていると感じます。社内も若手社員が意見が言いやすい、オープンな雰囲気なのでしょうか?

津田あすか(以下、津田):社員数が200名ほどの顔と名前が一致する規模感なので、経営層との距離の近さが社員の安心感につながっていて、アットホームな風土があると思います。社長室が常に開いていて社員が提案をするために社長を訪ねることもありますし、会議で若手の発言に対してもみんなで前向きに意見を交わし合います。

私が入社して間もない頃は、若手が会議で単なる報告を越えて、議論レベルまで発言をすることは少なかったですね。しかし、最近はこの数年で増えている中途入社社員の姿勢に刺激を受けて、入社年数を問わず、積極的に発言する空気が生まれてきました。特に、海外事業部や経営企画部など人数が少ない部署は、若手が活躍しないと成り立たない部分があるので、入社3年目、4年目の社員もどんどん意見を言って活躍しています。

髙津:語学力に関しては若手社員の方が、よっぽどすごかったりしますよね。変化の激しい現代は、これまでの経験ですべてを補えるわけではないから、自分たちに足りないスキルは若い人や社外の知見を持っている人から教えてもらう方が効率的だと考えています。彼らから色々学びたいと思っているから、社長室も結果として“オープン”です。

―津田さんは「キャリアコンサルタント」の国家資格をお持ちだったり、外部の勉強会にも自発的に参加されていたりするとお聞きしました。そこにはどのような背景や思いがあるのでしょうか?

津田:会社全体の課題として、事業領域が拡大している中での慢性的な人手不足があります。さらに、平均年齢が43.4歳(2019年4月現在)ということで、改善しているとはいえ、社員の高齢化による若手社員とのコミュニケーションギャップを埋める必要もありました。そして、私自身は入社2年目以降ずっと総務部に在籍している中で社員教育に携わり、雇用の定着化や若手社員のモチベーションアップにつながらないかと模索していたんです。でも、会社の中から見ているだけでは課題感は掴めても具体的にはどうしたらいいのか分からなくてモヤモヤしていました。新入社員の面談を担当することになった際も、彼らの気持ちに寄り添えるよう努力しましたが、自分が役に立っているのかどうか実感できなくて…。そういった葛藤から、外に出て勉強したり、キャリアコンサルタントの資格を取得したりすることで、面談技術を上げることにしました。

―“会社の外”に課題解決のヒントを求められたんですね。

津田:はい、特に業種を問わず人事担当者を対象にした社外研修は得るものが大きかったです。そこで知り合った方々との交流は今でも続いていて、「うちではこんなことをやっている」「これはうまくいかなかった」というような本音を聞けるので実践的で参考になっています。日本橋の街と様々な職種の若手クリエイターをつなぐプロジェクト「nihonbashiβ」に地元企業を代表して参加したときは、クリエイターのみなさんの斬新な意見やアイディアをうかがって、新しい発見や刺激を得る機会になりました。

このプロジェクトでは日本橋本店にかけるのれんをつくるという課題があったのですが、一緒にチームを組んだ参加クリエイターの方々が初めて弊社にリサーチにいらしたとき、「いい香りがする!」と言われたのが新鮮でした。私たちは慣れているので、お店にただよう鰹節の香りをもはや意識しなくなっていたんですね。入社して年月が経ち、当たり前に感じていることが多くなった分、凝り固まってしまっている頭をほぐされたような感覚がありました。ちなみに、このときに一緒にプロジェクトに取り組んだ方が別の切り口の企画を提案してくださっているんですよ。

だしを脇役から主役へ!社内外から見て魅力的な会社をつくるというチャレンジ。

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―最後に、今後お二人が取り組まれたいチャレンジを教えてください。

髙津:だしは「味のインフラ」と称されることもありますが、それは同時に脇役的存在であるともとれます。これからは鰹節やだしを主役にしたい。その気持ちが、色々なコラボレーション、お惣菜の販売、飲食店の経営までつながっています。現在も新たな商品の開発を模索していて、昨年参加した外部とのワークショップをきっかけに生まれた「鰹節をいぶす木を変えることによって、鰹節にフレーバーを付ける」という企画が動いています。色々と安請け合いしすぎかもしれないと自省するときもありますが、外部からの刺激をうまく取り入れながら、事業になるか分からないことも含め、チャレンジは続けていきたいですね。日本橋という街では、一つの商売にこだわりながらも、新しいことに挑戦し続けたお店が長く続いているという感じがしますから。

津田:私自身が社内外の研修を通してブレイクスルーできたことが多かったので、総務部としてキャリア教育を強化していきたいです。弊社では、入社後に鰹節の製造現場を知る2週間の工場実習を含む6カ月の間研修期間を設けています。それが社員の「にんべんの鰹節」への誇りに結び付いてきたと捉えていますが、それ以降は係長などの役職につくまで研修がほとんどない状況です。入社してから数年は何かと悩むことも多い時期なので、この間をフォローする施策に取り組みたいですね。でも単純に「取り組みたい」と言うだけでは日々の業務の中で流されていってしまうので、実際に教育体系や制度をつくることが私にとってのチャレンジです。

―会社が抱えている課題に対して、自分たちができることを具現化することは大事ですね。

津田:そう思います。だしアンバサダーのお話がありましたが、社員で鰹節の歴史や製造工程、だしについて詳しく語れる人は意外と少なかったりするんです。一方、アンバサダーは社員数ぐらいに増えていて弊社に魅力を感じてくれています。そうした外部の方から影響を受けて、社員一人ひとりが鰹節教室が開催できるぐらいまで鰹節の知識を深められたら、業務においてもっと違う見方ができるようになるのではないかと感じています。私自身、もっと弊社の歴史も勉強したいと考えていて、そういったことを学べる教育体系も別に設けることで、外から見ても中から見ても魅力的な会社になるんじゃないかと。これは長期的な話になりますが、ぜひチャレンジしたいです。

取材・文 : 皆本類(Konel) 撮影 : 岡村大輔

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