Interview
2019.02.27

“ヘンな家電屋 Shiftall”のシゴト徹底解剖[前編]
〜誰もが話題にしたくなるプロダクト開発の秘密とは?〜

“ヘンな家電屋 Shiftall”のシゴト徹底解剖[前編]
〜誰もが話題にしたくなるプロダクト開発の秘密とは?〜

1月にアメリカで開催された家電テクノロジーの祭典「CES 2019」でクラフトビールの自動補充サービス「DrinkShift」を発表したShiftall(シフトール)。日本橋・馬喰町に構えるそのオフィスには、最先端プロダクトを生み出す組織をつくる、様々な工夫があると聞き取材をしてきました。DIYでつくったオフィスへのこだわりやコミュニケーションづくりのポイントなど、CEOの岩佐琢磨さんと執行役員の甲斐祐樹さんに伺ってきました。

“ヘンな家電屋”が世に送り出す
驚きを詰め込んだ最先端プロダクト

—まず最初にShiftallさんがどういった会社か、お聞かせいただけますか。

岩佐:そうですね、家電屋さんです。

—最先端のIoTプロダクトを開発している企業とお聞きしていたのですが(笑)。

岩佐:もちろん、それも正しいです(笑)。ただ、私たちが手がけるプロダクトは基本的に家電なんで“家電屋さん”と言ってしまいますね。他のメーカーがつくる家電との違いは、私たちの開発する家電には、ハイテクノロジーを使った“驚き”が必ず入っているという点でしょうか。

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—具体的にはどういったことですか?

岩佐:わかりやすいのが、先日アメリカで開催された世界一大きなコンシューマー向けテクノロジーのショー「CES 2019」で発表した冷蔵庫「DrinkShift(ドリンクシフト)」です。これはクラフトビール専用の冷蔵庫なのですが、ビールがなくなると、なくなった分が自動で注文され自宅に届くという仕組みが組み込まれています。
スマートフォンアプリと専用冷蔵庫が連携していて、庫内にあるビールの残数や利用者の飲むペースを自動で判断。好きなビールが、最適なタイミングで届きます。冷蔵庫自体の見た目は、リビングや書斎に置くことを想定したスタイリッシュなデザインにしました。利用に応じたサブスクリプション(継続課金制)での課金を考えています。

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ビールの消費ペースを読み取って最適なタイミングで補充用ビールが自宅に届く「DrinkShift」。

甲斐:先ほどの驚きというのは、冷蔵庫だけではなく自動で注文する仕組みもトータルで提供するサービスという点ですね。その他にも、パナソニックが企画・デザインした「WEAR SPACE(ウェアスペース)」という、世界中どこにいても今いる場所が自分だけの集中スペースになるヘッドフォン型のウェアラブル製品の開発も行っています。これは顔の左右にカバーがあって、仕事や勉強、音楽に集中できるハードウェアですね。ノイズキャンセルヘッドホンに視野を制限するための大きなパーティションがついた構造です。

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オープンな空間にいながら周囲との境界を作り出し、心理的なパーソナル空間を生み出せる「WEAR SPACE」。

岩佐:こういったものを開発しているので、ハイテクな家電屋、もしくはヘンな家電屋という言葉が一番わかりやすいと思います。家電をつくっていますと言うと、その後のコミュニケーションが広がりやすいんです。ITの話題って業界にいない人にとってわかりにくい話や単語が多くて、ITをやっていますって言った瞬間、これ以上踏み込むとわからない単語が来るぞ!と思って、みなさん少し引いてしまうんですよね。でも家電なら、扇風機・冷蔵庫・テレビ・電子レンジ・掃除機といった誰もが知っているものなので、会話が弾むんです。

プロダクトに意外性があれば、 
世の中に広がり、売れる。

—確かに仕組みや見た目に驚きというかインパクトがありますね。

岩佐:私は人生のすべてにおいて“意外性”がとても重要だと考えていて、それは製品にも体現されています。私たちはよくPRが得意と言われますが、その理由もそこにあると思っています。製品開発はPRと密接に結びついていて、意外性があればそこをフックにみんなが話題にしてくれる。“意外性”と“話題になること”というのはセットなんです。逆に意外性のない製品はPRだけでは売れません。 なのでプロダクトを考えるにあたってはPRしやすい意外性を、製品に込めることを意識して開発しています。

—意外性をひとつまみ、どの製品にも入れているんですね。

岩佐:いや意外性はひとつだけでは足りないと思っています。例えば「DrinkShift」を田舎に住むご両親に見せた場合、「あら、おしゃれな冷蔵庫ね」とは絶対言わないんですよ。きっと第一声は「あんた、何これ?」だと思うんです。これが最初の意外性。よくわからないけど面白いものということに、私たちはものすごくこだわっています。そして、実際に触れてドアを開けると、みんなニヤッと笑ってくれる。「なんだビールの冷蔵庫か!」と面白がってくれます。これが2番目の意外性です。そして最後に冷蔵庫の中身が切れる前にビールが自宅に届くという、目に見えないテクノロジーやシステムの話をすると、ほぼ老若男女、国籍問わずにびっくりしてくれる。これが3番目の意外性です。

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—見て分かる驚きだけでなく、いろいろと驚きが隠れているというのがいいですね。

岩佐:一瞬でわかってしまう意外性よりは、隠れた何かがあるっていうのはすごくいいと思っています。

甲斐:多くの意外性が製品に込められていれば、自然とみんなが話題にしてくれて世の中に周知されていく。これはどんな分野の製品・サービス開発にも応用が利くんじゃないでしょうか。営業力が強い企業や、広告とか宣伝がすごく上手という会社もそれはそれで全然いいと思います。Shiftallの場合は、意外性を製品に込めて周知させていくのが得意という話です。

新製品は“霧”から生まれる?!
毎年のCESでの発表をイノベーションの源に。

—Shiftallでは開発の際にどのくらいアイディアを出すのですか?

岩佐:みなさんが思っている以上に、出すアイディアの数は少ないと思います。広告業界などは100を超えるアイディアを出して、3つ試作して、1つ最後に納品するみたいなことが多いですよね。ロゴデザインなどはまさにそう。でも私たちの場合は5個アイディアを出して、1.5個ぐらい試作して、1個世の中に出すぐらい。ただ最初の5個の前には、ぼんやりとしたアイディアとは呼べないイメージが霧の粒のように無数にあって、それを5個のアイディアにしていき、1個に絞っていきます。最後の絞っていく作業は社員と一緒にやっていく感じですね。

—霧のようにという部分について、もう少し詳しく聞かせてください。

岩佐:私の場合、主に飛行機に乗った時に更新する、製品のネタリストのファイルを持っています。そこにはすごく抽象的なことしか書かないので、今回の「DrinkShift」であれば「なくなったらリフィル(詰め替え)するものっていろいろあるよね」といった1行だったり、「紙・水じゃないもの」といった1行がファイルに書いてあるだけ。1個のアイディアと言えないようなレベルのものです。その後、水にしようか?ビールにしようか?それともインクカートリッジにしようか?といったように5個ぐらいのアイディアを出す。そのような流れで考えることが多いですね。

—社員のみなさんからアイディアを投げかけられることもありますか?

岩佐:ありますね。現場でアイディアを出してもらうこともあります。みんなでアイディアを出し合うとモチベーションにもつながりますし、メンバーの納得性が出ますよね。以前は一人で決めてしまうことが多かったので、今は、このやり方をチャレンジしています。

—その他にもメンバーを意識して行っていることはありますか?

岩佐:そうですね。今回「DrinkShift」を発表したCESは1年に1回行われているイベントですけれども、そこでの新作発表をメンバーのイノベーションに対するモチベーションにしているところはありますね。「CES」に出すと決めてそこをゴールに走っていくと、終わったあとも「来年もまた何か作るんだろうな」という雰囲気が生まれますからね。今年もこの季節が来たぞっ!と思える定期イベントは結構大切です。「CES」以外にも面白いイベントはたくさんあるのですが、今のところはマーケット的にも日本のメディア的にも圧倒的に注目度が高い「CES」に的を絞っていますね

テクノロジーとすごく相性がいいのは、
老舗やトラディショナルな業界。

—ところでShiftallさんがこの馬喰町を選んだ理由は、どのようなものだったんですか?

岩佐:理由は2つありまして、ひとつは秋葉原が近かったこと。秋葉原という街は、私たちのようなものづくりの会社にとって特別で、多くの電子部品を買いに行ける場所ということだけでなく、家電やガジェットの最先端にいつでも触れられる有意義な場所なんです。電気街に10分〜15分で行けるというのは極めて大きいですね。そしてもうひとつは、成田空港と羽田空港のどちらにも行きやすいということ。

甲斐:私たちは、海外と常に仕事をするので、成田と羽田の両方を使えることはとても便利です。時間や運賃によって羽田と成田の便を使い分けられるのは大きなメリットです。

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岩佐:あと、「ベンチャーの王道でない」場所という点がよかったのかもしれません。ベンチャーなら六本木や渋谷というイメージを、誰しも持っているじゃないですか。でも馬喰町や最寄り駅の浅草橋の名前を出して、そこでITをやっていますと言うと、みんな興味を示してくれます。先ほどの意外性はここにも言えることですね。

—Shiftallさんは、今後どのような相手とコラボレーションしていきたいと思いますか?

岩佐:そうですね、業界自体が成熟したトラディショナルな分野と一緒にやりたい気持ちが結構ありますね。今回手がけたビールや、日本酒の醸造所も長い歴史があり事業スキームが確立されています。不動産業界なども面白そうですね。成熟しているからこそ、今のままの業態では早い時期に限界がやってくる。でもそのような業界にこそテクノロジーが必要なんです。

—トラディショナルな業界はテクノロジーと相性が良いわけですね。

岩佐:はい、そう言えると思います。あと、企業だけでなくこのあたりの日本橋界隈もトラディショナルですから、IoT開発の視点でできることはいくらでもあると思いますね。街のインフラなどはとても興味深い。ずっと昔から残っている水運などには可能性を感じます。例えば屋形船などは、まだまだテクノロジーを取り入れられる。今は舟運事業者によって、電話予約だけとか、直接行かないと予約できないとか、申し込みのシステムがバラバラだったりするんですが、すべての事業者の空き状態が全部リアルタイムで分かって、アプリで予約できるシステムになるだけでも相当なイノベーションだと思います。

甲斐:ゆくゆくは自動航行や、今空いている船に途中から乗ることができるシステムも可能なのではないでしょうか。相乗りのライドシェアなども視野に入れれば、客単価をあげることも可能。金額は高めだけど30分だけ屋形船を楽しむといった風に気軽に乗れるようになれば、もっと屋形船に光が当たると思いますね。

常に最先端を生み出すShiftallの哲学について伺った今回の記事に続き、後編では、ローテクとハイテクが融合された社内システムや、コミュニケーションあふれる組織にするためのオフィスづくりなどについて伺います。

取材・文:安井一郎(Konel) 撮影:佐藤達哉(Konel)

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