Interview
2019.2.8

街づくり×店づくりの視点で未来を創る。
老舗鮨店・繁乃鮨が描く“人と文化が育つ街”のビジョンとは?

豊洲市場への移転で昨年大きな話題となった東京の魚河岸は、その昔日本橋のたもとにあったことをご存知でしょうか?その魚河岸の魚屋をルーツにもつ老舗鮨店“繁乃鮨”の佐久間一郎さんは、鮨屋の店主という顔のほか、日本橋の街づくりにも積極的に取り組むクリエイティブな三代目。
老舗鮨店の歴史から未来のビジョンまで、幅広くお話を伺いました。

先代から続く、“人と向き合う”ことへのこだわり。

―はじめに繁乃鮨の歩みについて教えてください。

もともとは日本橋の魚河岸で「高根屋」という魚屋を営んでいて、魚河岸が築地に移ってから、昭和24年に鮨屋として創業しました。魚屋の時代から宮中の神事に使う鮮魚を宮内庁に納めさせて頂いており、今も毎朝納めてからお店を開けています。

―宮内庁への出入りが許されているとは...、なかなか知りえない世界ですね。

厳かな場所だけに、気を引き締めてきちんとした格好で行かないと、という思いはあります。先代より変わらぬ真摯な思いで魚を納めている一方、初代は自転車で、二代目はバイクで、そして私はアウディで出入りしていますよ、時代ととも にそういう部分は変化するものです(笑)。

―代々受け継がれてきたことはあるのでしょうか?

先代からの大切な教えがあります。一つは“お客さま一人一人と向き合いなさい”ということ。例えば年配の方には握りを小さくしたり、カウンターのお客さまには話しかけられたいのか否かを見極めて声をかけたりと、相手に合った応対を心がけています。
もう一つは“心地よい空間作り”です。お客さまには数ある鮨屋の中から選んで頂いたうえ、食べてから帰るまでの時間も頂戴しています。だから美味しいものを提供するのは当たり前で、それに加えて心地よくいられる空間を演出することが大切なんです。
常連さんでも初めての方でも「美味しかったね、そして楽しかった!」と言って帰って頂けるのが一番嬉しいです。

鮨屋にもテクノロジー。移り変わる街で、楽しみながら変化に対応。

―日本橋で生まれ育った佐久間さん。長年日本橋を見てきて感じる変化はありますか?

それはもう様変わりしましたよ。昔は金融の街だったので 15 時に一斉にシャッターが閉まって、そのあとはひっそりと静まり返っていました。その頃の日本橋は、繁乃鮨なら繁乃鮨、三越に来たら三越だけという感じで、ピンポイントの目的で来る街でしたね。
バブルの頃は商用利用が多く、接待で豪勢に食事をする方も多かった。また当時は江戸橋の近くに店舗があったので、11 時を過ぎると茅場町方面の証券マンたちが一斉に橋を渡ってランチをしに来ていたのも覚えています。 そしてバブル崩壊の影響を大きく受けたのも金融街だった日本橋。同じ頃繁乃鮨は江戸橋から現在の場所に移転し、街もまた変わっていきました。

―今の日本橋にぎわいのきっかけは何だったのでしょうか?

コレド室町がオープンした2010年頃から人の流れが変わり、その後映画館ができたことで滞在型の街に変化しました。散策しながら映画を観たり買い物をしたり、多様な楽しみ方がある街になってきているし、これから更に滞在時間が長くなってほしい。一日を過ごす中でぜひ食事も二度楽しんでほしいです。
また歴史がある街なので、昔の景色や通りの名前などを思い起こしながら楽しむのもおすすめです。昔からの文化がしっかり根付き、その延長に今の街並みが あるのが日本橋と他の街との大きな違いです。

―最近のお客さまに変化はありますか?

外国のお客さまが増えましたね。近隣ホテルに泊まっている観光客や、周辺の製薬会社に勤める技術者などが多く、うちのお店にもよくいらっしゃいます。外国の方はカウンターが好きなようですね。会話をしていてどうしても言葉がわからないときは小型翻訳機を愛用しています。ポケットにいつも隠し持っていますよ。いきなり出すと恥ずかしいので、裏に行って翻訳機でこっそり確認してから出てきたり(笑)。会話も楽しめますし、3つ星レストランのシェフがInstagramに写真をアップしてくれたこともあり、コミュニケーションの一助になっています。鮨屋もテクノロジーを活用する時代です。

人とのつながりが街全体を考える視点を生んだ。

―今、お店や個人でチャレンジしていることはありますか?

とにかく街づくりですね。なぜ一所懸命になるのかというと、一店舗だけで頑張ってもだめで、エリア全体が良くならないと人は離れて行くからです。今は昔のようにピンポイントの目的来街ではなく、いろんな選択肢から“行く街”を選ぶ 時代。街に魅力がないとお店は栄えないんです。具体的な活動として、街の景観デザインのルール作りに携わっています。新しいお店が出店する際、日本橋の景観の中で活きるデザインかどうか、ゆるやかな話し合いの場を持つように努めています。
出来上がる前に話し合えば、街と店との双方にメリットがあります。歩いていて気持ちが良いかどうかという視点で、皆でコミュニケーションを取りながら進めています。三年ほど取り組んできて、やっと形になってきました。

―お鮨屋さんが街づくりの視点を持って活動されている。とてもユニークですね。

鮨屋が並んでいると「競合が多くて大変だね」と言われますが、決してそうではないです。お客さまに選ぶ楽しみができて、むしろ、街としては賑わうので。日本橋は人と人とのつながりが強いし、一緒に街を作っていこうという意識が強いです。同世代の人たちとは子供の頃からゆるくつながっていましたが、今は仕事や活動を通して関係が深くなり、自然と街全体の視点で考える習慣が身についた気がします。

―街に関する活動の中で大切にしていることはありますか?

“上品さ”です。新しいことは歓迎しますが、何でも取り入れるのではなく、上品さという軸を持った上で判断して、美しさ・思いやりなど形のない部分を大切にしたいと思っています。ハードにはいくらでも手を入れられるけれど、そういう人の心にあるものがブレてしまうと、良くない方向に行ってしまうと思います。

次のキーワードは劇場?文化と人が花ひらく街へ。

―今後の日本橋でやりたいことはありますか?

今の日本橋に足りないのは、劇場のような文化施設だと思います。舞台を見せる場所であり、人を集める機能もあり、演者とお客さまが向き合う小劇場。文化を引き継ぐのも大事ですが、文化を生み出して、“今”から五十年、百年と続いていくものを創りたいです。例えば舞台俳優さんの卵がいたら、その人たちがこの地でクリエイターと結びついたり、老舗に来店したりして、“街が若手俳優を育てる”という流れができたら素晴らしいと思う。いつか売れてメディアに出た時に、「日本橋から巣立っていきました」なんてなったら誇らしいじゃないですか。

―“街が人を育てる”とは、日本橋のイメージや精神と相性が良いですね。

そう思います。そういう人たちが来てくれたら、また違う街の魅力が生まれるかもしれない。新しい文化をつくりたいですよね。
既に有名な人やお店を連れてくるのは簡単ですが、これから芽が出る新しい才能を育てるのはなかなかできないこと。でもこのあたりはもともと明治座等もありますし、人に感動を与える芸術を応援する風土があります。それに日本橋の人たちは熱くて人情の心をもっているので、「お代はいらないからちょっと食べていきな!」といった“粋”の精神で若手をサポートする環境がつくれそうな気がします。チェーン店などではできないことですよ。

新しい人たちと、伝統に別の視点を取り入れるチャレンジを。

―日本橋にクリエイターやスタートアップ企業が増えていますが、彼らをどう見ていますか?

古くからいる私たちも新しく日本橋に来る人たちも、同じ立場だと考えます。彼らも日本橋が好きでここを選んでいると思うし、もっと良くしたいと思っているはず。だから一緒に知恵を出して積極的に関わり合いたいです。
私たちだけで街を変えようとするとどうしても斬新さに欠ける面があるので、先日の“未来ののれん展”(※)のような、伝統に新しい視点を取り入れるチャレンジにはとても興味があります。お店や街についても「ここを変えたらもっと良くなるのでは?」と、幅広く議論できたら良いですね。新しいアイディアをもらい、それをカタチにするための行政交渉などは私たちが担当するなど、協力・役割分担して動けたら良いと思います。じっくり時間をかけてやるよりは、できることからどんどん進めたい。伝統は守りつつ、進化させていくことが魅力的な街づくりにつながると思います。 ※ 若手クリエイターたちが自由な発想と最新テクノロジーを用いて、日本橋の有名店の“未来ののれん”を作るプロジェクト。

―そういうウェルカムな姿勢は街全体にもあるのでしょうか。

意外と新しいことにオープンだから、良いものは「うちもやりたい!」と一気に広がる機運があります。私は今、オリジナルのLINEスタンプを作りたいのですが、作ったらきっと皆うらやましがって騒ぎになりますよ(笑)。一般的な“老舗”のカタいイメージとは違うんじゃないでしょうか。

新しく街に入って来られる方々へメッセージをお願いします。

街づくりにぜひ参加して下さい。ちょっとでも気づいたことがあれば言ってほしいし、グイグイ食い込んでもらいたい。我々はとにかく「何でも聞くよ!」という姿勢でいます。横のつながりが強い街なので、誰か一人でも交流を持つと、どんどんネットワークが広がっていくはずです。もちろん繁乃鮨にも来て下さい!お店についてでも、街についてでも、何でも意見が欲しいです。“これで良い”と満足してしまってはダメな時代ですから。

佐久間さんのおすすめ店舗

老舗の3代目はどんな飲食店をよく利用しているのか?そんな純粋な疑問から、おすすめ店舗を伺ってみました。

1. 炭火焼肉あかぎ
地元の仲間みんなが大好きな茅場町のお店です。よくここで集まって飲んでいます。
2. ニューとりぎん
安くておいしい、昔からある安心感のあるお店です。
3. RIBAYON ATTACK (OVOL日本橋内店舗)
注目の新店です。今まで日本橋になかったジャンルで、最近のお気に入りです。

取材・文:丑田美奈子 撮影:佐藤達哉

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